現美新幹線、いなほ、海里

新潟県

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現美新幹線(2020運行終了)

輝きを放つ「現美新幹線」、それは「走る美術館」の異名を持つ、優雅で魅惑的な乗り物だった。
美術をこよなく愛する者たちの間では、その独特の魅力に引き寄せられ、一度でもその豪華な座席に身を預けてみたいと熱望した者は少なくなかった。
だが、2020年の冬、その情熱的な走行は、時の流れとともに静かに幕を閉じた。

2016年の春、新潟駅から越後湯沢駅へと向かう初運行の日、初めてその車内を見た乗客たちは息を飲んだ。
車内は数々の美術品で埋め尽くされ、まるで移動する美術館のようだった。
「現美」の名が示すように、「現代美術」を全身で感じることができる特別な新幹線だったのだ。

当初は限定の旅行商品として販売され、美術愛好家たちの心を捉えたが、その後は一般の人々にも開放され、気軽にその美の世界を堪能することができたようになった。
そして、その指定席は、高級感あふれる元グリーン車の座席だった。その豪華さが、人々を現美新幹線の魅力に引き込んだのだ。

その外観デザインは、映画監督で写真家の蜷川実花氏の独特の色彩感覚とデザインセンスによって創り出された。彼女の手によって、新幹線自体が美術品と化した。

車内もまた、美の宝庫だった。7組のアーティストが自身の才能を惜しみなく注ぎ込み、内装のリファインや美術作品の展示を手掛けた。それぞれが持ち味を活かし、空間に色彩と情熱を吹き込んだ。

だが、全ての美しいものには終わりが訪れる。現美新幹線は老朽化のため、運行を終える運命に繋がれた。
新型コロナウイルスの影響はあったものの、それは運行終了の決定には関与しなかった。最後まで、その美と魅力を保ちつつ走り続けた。

その存在は、単なる新幹線を超え、一つの美術品、一つの情熱の象徴となった。多くの人々に感動と美を提供し続けた「現美新幹線」。その魅力と美しさは、これからも私たちの記憶の中で色褪せることなく生き続けるだろう。

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いなほ

庄内平野を包み込む風を断ち切りながら、「いなほ」は一筋矢のごとく進んでいく。この地は日本屈指の稲作地帯で、その風景を繋ぐ役割を果たす特別急行列車、それが「いなほ」である。
新潟から酒田、そして秋田へと彼の地の美麗な風景を結ぶ彼の列車は、白新線と羽越本線を通過する。

2013年の秋、時代の流れと共に長年使用されてきた485系電車は、より効率的なE653系電車に取って代わられた。
続く年には、全ての列車がこのE653系に統一された。そのなじみ深い姿と滑らかな動きは、過去に紀勢本線で「くろしお」を担っていた485系への感慨深い思い出を呼び起こす。
私自身、和歌山出身であるため、その列車には特別な情緒が湧く。

だが、「いなほ」の運行にも困難さが伴う。新潟と山形の境界近くの路線状況は厳しく、その複雑さは列車の速度向上を阻んでいる。
部分的に複線化が進んでいるとはいえ、課題はまだまだ山積みである。

さらに、「いなほ」は日本海沿岸を多く走行するため、特に冬期間は降雪や吹雪、積雪による遅延や運休が常につきまとう。
だがそれでも、「いなほ」は絶えず信頼性を保ち、その使命を果たし続けている。

そして、酒田から秋田までの間、人口の少ないこの沿線では、「いなほ」の特急が日に二度だけ通るのみ。
この運行本数の減少は、この地域にとって深刻な問題である。

「いなほ」の外観もまた物語を語る。その車体には、ベーシック塗装、ハマナス色塗装、そして鮮やかな瑠璃色塗装と、3つの異なる塗装が施されている。
その美しい姿は、駅に足を踏み入れた人々の視線を瞬く間に奪う。

列車が駅を出発する時、風になびくその美しい車体が庄内平野を駆け抜ける様は、まるで風に揺れる稲穂のように美しい。

「いなほ」、その名の通り、この地域の象徴とも言える存在。それは、人々の心を捉え、離さない魅力を秘めている。

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海里

海と里が調和し、互いに溶け合う風景と食文化、それらを五感全てで体感しながら深く味わう旅。それこそがJR東日本が誘う、観光列車「海里」の誘いだ。
新潟から酒田へ、白新線と羽越本線をたどりながら、海と里、その双方の魅力を贅沢に満喫できる時間と空間がここに広がっている。

4号車の車内で目の前に広がるのは、新潟・庄内地方の料亭やレストランが監修した絶品料理。それらは海里オリジナルの食器に盛り付けられ、目にも美しい一品一品が旅の風景と融合し、旅行者の味覚を刺激する。
そしてその料理の味わいは上りと下り、月ごとにその風味を変えていく。列車の中で、このような豊かな食事を享受できるのだから、まさに贅沢だ。

そして、1号車と2号車では通常の指定席だけでなく、3号車の売店で海里特製の弁当も購入することができる。
これは、海里が観光列車としての役割を果たす一方で、乗客の利便性と心地よさも追求していることを象徴している。

新潟から酒田まで、特急「いなほ」が同じ路線を飛ばし、時間を刻む一方、海里は余裕をもって景色や美食を堪能するためのスペースとなっている。
週末を中心に運行される海里は、新潟発の下り列車が午前中に、酒田発の上り列車が夕方に出発する。これにより、乗客は一日を通して、海と里の風景をじっくりと堪能できる。

特に通常ダイヤでは、美しい笹川流れの景観を存分に楽しむために、桑川駅から越後寒川駅までの間で、列車は減速運転を行う。
そして桑川駅では、上下線ともに20分から30分の長時間停車が設定されている。
これにより、乗客は地元の風景をじっくりと味わうことができる。

これこそが、海里の旅。心地よく流れる時間とともに新潟と酒田を結び、海と里の美味しいものや風光明媚な景色を楽しむための最良の機会がここにある。
それはまさに、心と体を満たす豊かな旅を求めるすべての人々にとって、一度は体験してほしい至極の旅行と言えるだろう。

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